「ハロルドと精霊」

■舞台の準備■
・背景(木漏れ日の落ちる森の開けた場所)をセットする。
・背景(右記)の前15〜20センチ程のところに「茂み」を二つセットする。

■役者の用意■
・ハロルド(木こりの服)
・ハロルド(商人の服)
・ハロルド(詩人の服)
・ハロルド(役者の服)
・ニーナ

■台本■

【語り】「ハロルドと精霊」

【語り】そこはめったに人がやってこない静かな森。町からその森に向かうには、橋の架かっていない川を一つ超え、谷底の見える険しい山道を進み、切り立つ崖をよじ登らねばなりませんでした。その森の奥には光が差し込む丸く開けた場所があり、そこで心を込めて呼びかければ、助言を与えてくれる精霊の声が聞こえてくるといいます。そんな噂を聞きつけて、この場所に一人の若者がやってきました。

●ハロルド(木こりの服)を登場させる。

【セリフ】ハロルド「ああやっと辿り着いたようだ。きっとこの場所に違いねぇぞ。」

●ハロルドをウロウロさせる。

【語り】ハロルドはしばらく辺りをウロウロしていましたが、意を決して呼びかけました。

●ハロルドを背景の方に向かせる。

【セリフ】ハロルド「精霊さんどうか聞いてくだせぇ。おいらは木こりの息子ハロルドといいやす。おいらは小さい頃から親父に連れられて木こりの仕事を手伝っていやした。でもこうして大きくなってみっと、このまま親父と同じ木こりのままじゃあどうにも人生が味気なく思っちまうんです。」

●ハロルドを少しキョロキョロさせる。

【セリフ】ハロルド「精霊さん、聞いているならこのハロルドに何か助言をくれねぇだか?」

●ハロルドから手を離す。

【語り】しばらくすると差し込む光の中から声が聞こえてきました。

【セリフ】精霊「ハロルド、あなたが心から願うなら、あなたはどんなあなたにでもなれます。あなたの心の声を聞きなさい。」

●ハロルドを喜ばしそうに動かす。

【セリフ】ハロルド「おおそうかっ! おいらの心に聞けば良かったんだな。ちょうどおいらは思ってたんでさ。何か商売でもおっぱじめて町で一旗あげたいってな! なんだやっぱりそうだったのか。それじゃいっちょ町へ帰って商売をはじめるべ。」

【語り】そう言ってハロルドは町に帰っていきました。

●ハロルドを退場させる。

【語り】帰りの道すがら、ハロルドは「あそこの崖は高くていけねぇからハシゴをつけとくべ」とつぶやいて、森の中から長めの木を何本か手斧で切って持っていきました。

【語り】それからいくらかの月日が過ぎたあと、この場所にまたハロルドがやってきました。

●ハロルド(商人の服)を登場させる。

●ハロルドを少しウロウロさせてから背景の方に向かせる。

【セリフ】ハロルド「精霊さん精霊さん、どうか聞いてくだせぇよ。この前精霊さんの話を聞いて、おいらは町で商売をはじめたんですわ。んで色々なもんに手を出したはいいが、ちっとも上手くいかねぇんだ。もしかしたらおいらは商売には向いてねぇかもと思いだしてな。なぁ精霊さん、おいらが町で成功できるもんが何だか教えてくれねぇか?」

●ハロルドから手を離す。

【語り】しばらくすると差し込む光の中から声が聞こえてきました。

【セリフ】精霊「ハロルド、あなたは生まれながらにして自分だけの詩を心に携えているのです。人は誰もが自分の心の詩人なのです。あなたの心からの詩に従いなさい。」

●ハロルドを喜ばしそうに動かす。
【セリフ】ハロルド「おおそうかっ! おいらは詩人だったんだな! なんだそうか、よし町にかえって早速詩を書くとしよう。」

【語り】そう言ってハロルドは町に帰っていきました。

●ハロルドを退場させる。

【語り】帰りの道すがら、ハロルドは「あの山道は落っこちそうで危ねぇから柵が必要だ。」とつぶやいて、適当な太さの木を手斧で何本も切って抱えていきました。

【語り】それからまたいくらかの月日が過ぎたあと、この場所にまたハロルドがやってきました。

●ハロルド(詩人の服)を登場させる。

●ハロルド辺りを見回して背景の方に向かせる。〈困ったように動かす〉

【セリフ】ハロルド「精霊さん、精霊さん、聞いて下せぇよ! この前精霊さんに教えてもらった通りおいらは詩を書いて町のみんなに聞かせたんですわ。でもだ〜れもおいらの詩になんか見向きもしやせんのや! これはどういうこってすか?」

●ハロルドから手を離す。

【語り】しばらくすると差し込む光の中から声が聞こえてきました。

【セリフ】精霊「ハロルド、人は皆この世界の役者なのです。あなたはあなた自身を演じるために生まれてきました。心からのあなたを演じなさい。そうすれば何もかも上手くいくでしょう。」

●ハロルドを戸惑っているように動かす。

【セリフ】ハロルド「役者ですって? この前と言っていることが違うじゃねぇですか? それならこの前のは間違いだったってことですかい?」

●ハロルドから手を離す。

【語り】ハロルドはしばらく答えを待っていましたが、今度はいつまでたっても声は聞こえてきません。

●ハロルドをしびれをきらしたように動かす。

【セリフ】ハロルド「なんだ精霊さん、だんまりかい。しかたねぇなぁ、じゃあもう一回だけおいらは精霊さんのこと信じてみらぁ。おいらは役者なんだな。よし町に帰って役者になろう。」

【語り】そう言ってハロルドは町に帰っていきました。

●ハロルドを退場させる。

【語り】帰りの道すがら、ハロルドは「あそこの川の水は冷たくていけねぇから橋をかけておくとしよう」とつぶやいて、太くて大きな丸太を一本切り倒して担いでいきました。

【語り】それからさらにいくらかの月日が過ぎたあと、ハロルドがまたやってきました。

●ハロルド(役者の服)を怒ったように登場させる。

●ハロルドを背景の方に向かせる。〈いらだだしげに動かす〉

【セリフ】ハロルド「精霊さん、一体どうなってるんですかい? 精霊さんが言った通りおいらは役者になろうとしたんだが、だ〜れも相手にしてくれながったぞ! 精霊さんインチキを言っちゃいけねぇど! なんとか言ったらどうなんだい!」

●ハロルドから手を離す。

【語り】しばらくすると差し込む光の中から声が聞こえてきました。

【セリフ】精霊「ハロルド、あなたが探しているものは、あなたが探しているから見つからないのです。探すのをやめなさい。そうすれば、あなたの探していたものが見つかるでしょう。」

●ハロルドをあきれたように動かす。
【セリフ】ハロルド「なんですって? そりゃぁ、めちゃくちゃな話だ! 探しものは探さねえと見つかりっこねえのは当たり前でねぇか! いい加減人をからかっちゃいけねぇど こいつはとんでもねぇ精霊さんだ!」

【語り】そう言い放ってハロルドは町に帰っていきました。

●ハロルドを退場させる。

【語り】それからまたいくらかの月日が過ぎたあと、今度は町から一人の若い娘がやってきました。

●ニーナを登場させる。クルクルと踊るように動かした後、背景の方に向かせる。

【セリフ】ニーナ「お久しぶりです精霊さん。一年も前にやってきたニーナです。今日はお礼を言いにやってきましたの!」

●ニーナをクルリと回す。

【セリフ】ニーナ「あのとき精霊さんの言葉を聞いてから、わたし気の向くままに道ばたで踊っていましたの。そうしたら劇場の支配人が突然通りかかってダンサーにならないかって! わたし小さい頃から踊るのが大好きだったこと、その時まで忘れていたわ! それからわたし夢中になってダンスを踊って、今度主役に抜擢されたのよ!」

●ニーナをクルクル踊るように動かす。

【セリフ】ニーナ「それはそう精霊さん。前にここに来たときはなかったのだけど、町からここに来る途中、登るのが大変だった崖にはハシゴがかかっていて、山道には落ちないように柵が付いていて、川には濡れないように橋が架かっていたわ。あれはどなたがつくってくれたのかしら?」

●ニーナから手を離す。

【語り】しばらくすると差し込む光の中から声が聞こえてきました。

【セリフ】精霊「ニーナ、あの切り立つ崖にハシゴをかけ、険しい山道に柵を設け、冷たい川に橋を架けたのはハロルドという若者です。」

●ニーナをクルリと動かす

【セリフ】ニーナ「そう。ハロルドというのね。そのハロルドはきっと、とっても腕のいい大工さんなんだわ!」

【語り】そう言ってニーナは踊りながら町に帰っていきました。

●ニーナを踊りながら退場させる。

【語り】それからまた何年かの月日が流れました。町から遠く離れたこの場所には、ときどき人がやってきて精霊に自分の心を問いかけていきます。町では今度、この町で一番のダンサーのニーナと町で一番の大工のハロルドが結婚式をあげるそうです。
 森の静かなこの場所には今も光が差し込んでいます。

おしまい。