「王様と五つ子」

【語り】ここはとある時代のとある国。その国の真ん中にはとても立派なお城がありました。お城の周りには建物が立ち並び、その城下町には沢山の人たちが暮らしていました。
 その国の王様は大層見栄っ張りで、この世で一番大きいという宝石をとても大事にしていました。王様は毎日その宝石をピカピカに磨いては、うっとりと眺めているのでした。
 そんなある晩のこと、王様の大事な宝石が何者かに盗まれてしまったのです。朝になって気付いた王様は火山のように怒って、お布令を出して犯人を捜させました。すると宿屋の女将があの晩に怪しい人物を見たというのです。
 王様はその宿屋の女将をお城に呼んで詳しく話を聞くことにしました。

●王様を登場させる〈王様を落ち着きなくウロウロさせながら〉

【セリフ】王様「ああっ、余の大事な宝石は一体何処に! これっ宰相! 早くその宿屋の女将とやらを連れてまいらんか!」

●宰相を登場させる〈慌てている様子で王様の前に〉

【セリフ】宰相「はいっ王様! 只今ここに連れてまいります。」

●女将を登場させる

【セリフ】女将「王様!あたしゃ見ましたよ。ええあの晩のことです。怪しい人影がお城の城壁からスタッと飛び降りてきましたのを!」
【セリフ】王様「おおっなんと! それでその怪しい奴めの顔は見えたのか?」
【セリフ】女将「それがあんまり暗いもんだから顔までは見えやしませんでしたけど、あたしにはそれが誰だかピンときましたよ。何故かってその怪しい人影はスカーフを巻いていたんですから。あれはあの五つ子の一人に違いありゃしませんよ!」

【語り】
 この城下町にはここで暮らす人なら誰でも知っている五つ子の青年が住んでいました。長男のアンディ、次男のバーナード、三男のチャーリー、四男のエドガー、五男のヨアンです。五つ子は見た目がほとんど一緒でしたから、町の人々が解るように小さい頃から色違いのスカーフを巻いていたのです。

【セリフ】王様「おう!そうかではそのスカーフの色は何色だったのだ?それが解れば犯人が誰だかわかってしまうぞい」
【セリフ】女将「それが王様、あたしゃそのスカーフが何色だったかまでは覚えていないんです。でも確かに五つ子の一人であることは間違いありゃしませんですわっ!」
【セリフ】王様「なんと肝心なところを覚えておらんのか! う〜む仕方ない。ではその五つ子とやらをここに全員連れてまいるのだ!」
【セリフ】宰相「ははっ!」

●女将を引っ込ませる

【語り】こうして五つ子は突然お城に呼び出されたのでした。

●五つ子を登場させる〈右から長男(黄)、次男(赤)、三男(青)、四男(緑)、五男(紫)の順で並べる〉

●王様〈たくらんでいるように〉
【セリフ】王様「むふふふふっ、この五つ子め。どうしてここに呼び出されたわかっておるな? もう手がかりを掴んでいるのだぞ。宝石を盗んだ犯人はこの中におるのだ! 余の大事な宝石を盗んだのは誰だ! さあ白状せい!」

●五つ子〈長男アンディ(右)から順番につまんで声を震わせながら〉

【セリフ】長男アンディ (黄)「そんな!」
【セリフ】次男バーナード(赤)「何かの間違いです!」
【セリフ】三男チャーリー(青)「一体何の話ですか?」
【セリフ】四男エドガー (緑)「嘘だ!」
【セリフ】五男ヨアン  (紫)「どうしてぼくたちが?」

●王様〈怒りを露にして〉
【セリフ】王様「しらばっくれるでない! お前たちの中の誰かがあの晩に城壁から飛び降りるのを宿屋の女将が見ているのだ! それにしてもお前たちは何てそっくりなんだ! 誰が誰だかわからんぞい」

●宰相〈さとすように〉
【セリフ】宰相「それお前たち、解るようにちゃんと自分の名を名乗ってみい。」

●五つ子〈長男アンディ(右)から順番につまんで〉
【セリフ】長男アンディ (黄)「僕は長男のアンディです。」
【セリフ】次男バーナード(赤)「僕は次男のバーナードです。」
【セリフ】三男チャーリー(青)「僕は三男のチャーリーです。」
【セリフ】四男エドガー (緑)「僕は四男のエドガーです。」
【セリフ】五男ヨアン  (紫)「僕は五男のヨアンです。」

●王様を五つ子の前でウロウロさせながら
【セリフ】王様「う〜む、ちゃんと兄弟で順番に並んでいたようだな。しかし確かにそのスカーフがなければ誰が誰だか解らんな。よしではお前たち。あの晩に何をしていたか順番に言ってみせい!!」

●五つ子〈長男アンディ(右)から順番にそれぞれの調子で〉
【セリフ】長男アンディ (黄)「僕はあの晩仕事から帰って家族と一緒に食事をした後すぐに寝てしまいました。」
【セリフ】次男バーナード(赤)「僕は四男のエドガーと酒場で飲んでいました。」
【セリフ】三男チャーリー(青)「あの日僕は南の森まで狩りに出ていました。」
【セリフ】四男エドガー (緑)「次男のバーナードが言った通りです。僕たちは酒場で飲んでいました。」
【セリフ】五男ヨアン  (紫)「僕は自宅でずっと本を読んでいました。」

●王様〈しらじらしく呆れた様子で〉
【セリフ】王様「お前たちさては嘘を付いておるまいな。騙そうとしてもそうはいかんぞ。」

●王様、長男アンディ(黄)に近づかせる
【セリフ】王様「そこの一番左の黄色、お前は家族と一緒だったと言ったな、そんなことは調べればすぐわかるのじゃ。おい宰相! この者が申すことが本当かどうかこやつの家族に聞いてこさせよ!」

【セリフ】宰相「ははっ、直ぐに使いをやらせます〜。」

●宰相を退場させる〈そそくさと〉

●王様〈ちょっと悦に入って〉
【セリフ】王様「むっふっふ。そうじゃな、お次ぎはそこの赤と緑じゃ! お前たちはあの晩二人で酒場で飲んでいたというが、その酒場は何という酒場じゃ? その酒場の名前をだな…、よいか? 同時に言ってみせるのじゃ!」

●次男バーナード(赤)と四男エドガー(緑)二人を持って続けざまに
【セリフ】バーナード&エドガー「せ〜の…」
【セリフ】次男バーナード(赤)「いのしし亭!」
【セリフ】四男エドガー (緑)「たぬき亭!」

●次男バーナード(赤)と四男エドガーを慌てるように動かす

●王様〈してやったりという様子で〉
【セリフ】王様「それみたことか! お前たちは嘘をついておったな!」

●次男バーナード(赤)と四男エドガー〈はっとして順番に〉
【セリフ】次男バーナード(赤)「あっ! そうだった! あの晩僕らは最初はいのしし亭で飲んでいて…」
【セリフ】四男エドガー (緑)「そうだ! それからたぬき亭に移ったんだった」
【セリフ】バーナード&エドガー「そうだそうだ! 王様、僕らが言っているのはどちらも嘘ではありません!」

●王様〈いまいましいという様子で〉
【セリフ】王様「なんだと! ぐぬ〜。さてはお前たちとっさに話を合わせておらんだろうな? ぐぬぬぬ〜。ますます怪しいぞい。」

●王様、五男ヨアン(紫)に近づかせる
【セリフ】王様「怪しいと言えばそこの一番右の紫もじゃ! お前は家で本を読んでおったらしいがそれを証明できる人はおるのか?」

●五男ヨアン(紫)〈ちょっびっくりして〉
【セリフ】五男ヨアン(紫)「えっ? そういわれましても…。僕は毎晩のように本を読んでおりますから、あの晩もそうだったとしか…」

●王様〈疑い深そうに〉
【セリフ】王様「その曖昧な言い方がまたいよいよ怪しいのう。あの晩自分が何をしていたかを証明できないとなれば…」

●ここで宰相が帰ってくる〈すごく一生懸命そうに王様の話をさえぎって〉
【セリフ】宰相「王様〜! 調べさせて参りましたぁ〜。長男のアンディの家族によりますと、確かにあの晩アンディは仕事から帰って食事をしてから直ぐに寝てしまったそうです。しかしですよ! さっきそのアンディは言いませんでしたが、その後なんとそこの五男のヨアンがアンディーを訪ねてきたそうなんです! これは怪しいですね王様!」

●五男ヨアン(紫)〈はっとした様子で〉
【セリフ】五男(紫)「ああ、そういえばあれはあの晩でしたかね。そうだそうだ。あの晩僕はアンディー兄さんに借りていた本を返しにいったんだった。でも兄さんは寝ていて…。」

●長男アンディ(黄)〈納得した様子で〉
【セリフ】長男アンディ(黄)「あ〜、そういえばヨアンに貸していた本がテーブルの上においてあったね。」

●五男ヨアン(紫)〈淡々とした様子で〉
【セリフ】五男ヨアン(紫)「といことは王様。こうしてアンディーの家族の証言もあることだし、僕への疑いも少しは晴れたんじゃないでしょうか?」

●王様をプルプル震わす

●宰相〈おそるおそる〉
【セリフ】宰相「あの〜。私何か余計なことを言ったでしょうか?」

●王様〈気を取り直して〉
【セリフ】王様「え〜い、もうよいわ! 後は残りの真ん中の青じゃ! お前は狩りをしに町を出ていたというがそれこそは真っ赤な嘘! 周りの人間を欺くために姿を隠すためとみたぞい! さあどうじゃ!」

三男チャーリー(青)「王様、僕はあの晩確かに南の森にいました。僕は木々たちの囁きに耳を傾け、夜風とともに唄っていたのです。夜空に浮かんだ星たちがそんな僕を見つめていたはずです。」

●王様〈うんざりしたようすで怒りながら〉
【セリフ】王様「おいっお前、一体何を気取ったことをぬかしておるんじゃ! そんな話が通ると思っておるのか!」

【語り】そのとき突然強い風が吹いて、お城の窓が大きな音を立てて勢い良く開いてしまいました。「ピュ〜バタン!」

●王様と宰相を背景の窓の方に目をそらさせる。

【語り】王様たちが大きな音に気をとられている間に、五つ子たちはこっそり立っている場所を変えてしまいました。

●三男チャーリー(青)と 五男ヨアン(紫)の場所を入れ替える。

●王様を五つ子の方に向き直らせて
【セリフ】王様「まったく最近はどうも風が強くていかんなぁ。で、なんじゃったかの? ああそうじゃった。おいっその真ん中のへぼ詩人! いい加減にしないと牢屋に放り込んでしまうぞい!」

●真ん中の五つ子を持って
【セリフ】五男ヨアン(紫)「王様王様、僕は五男のヨアンです。」

●王様
【セリフ】王様「なんじゃと?」

●真ん中の五つ子を持って
【セリフ】五男ヨアン(紫)「ほらこの紫色のスカーフが目印です。町を出ていたのはそっちの端にいる青のスカーフのチャーリーです。」

●王様、三男チャーリー(青)に向かって
【セリフ】王様「おいこらっ! お前はさっきまで真ん中にいたじゃないか! 勝手に場所を動いちゃいかん! もとの場所に戻るのじゃ!」

●三男チャーリー(青)と 五男ヨアン(紫)のをもとの場所に入れ替える。

●王様
【セリフ】王様「まったくなんて紛らわしい奴らなんじゃ。よしそこの真ん中の青! お前がもう犯人に違いあるまい! いいからとっとと白状せい!」

【語り】そのとき今度は城の外で大きな歓声があがりました。この国一番の曲芸師ムームーが町の広場でとっておきの技を披露していたのです。王様と宰相は思わず窓に駆け寄っていきました。

●王様と宰相を背景の窓の方に向かわせる。
【セリフ】王様「おお今日は曲芸師ムームーの講演の日であったか! 余は彼奴の技に目がなくてのぉ」

【語り】その隙に五つ子は今度は付けているスカーフを取り替えてしまいました。

●青のスカーフが真ん中にこないように適当にスカーフを付け替える。

●王様を五つ子の方に向き直らせて
【セリフ】王様「おっとこれはいかん! つい気をとられてしまったわい。」

●王様、五つ子をよく眺めて異変に気が付く
【セリフ】王様「むっ、むむむむむっ〜! こらっお前たち! さっきまでは真ん中の奴が青じゃった。余はしっかりと覚えておるぞ! さてはまた場所を変えおったな!」

●適当な五つ子を持って
【セリフ】五つ子「王様、僕たちは言い付け通り場所は変えてはいません! ただ付けているスカーフを変えてみただけです!」

●王様〈怒りを露に〉
【セリフ】王様「なんじゃと! ふざけおって! スカーフを変えてしまったら誰が誰だか解らんじゃないか! 何の為のスカーフだと思っておるんじゃ!」

●緑のスカーフ以外の五つ子を持って
【セリフ】五つ子「では王様、緑のスカーフは僕たちのうち誰でしたか?」

●王様、緑のスカーフをしている五つ子に近づいて
【セリフ】王様「緑のスカーフはほれその場所にいるからえ〜と…」

●緑のスカーフをしている五つ子を持って
【セリフ】五つ子(緑)「王様、緑のスカーフはエドガーです! それでは王様、ヨアンのスカーフは何色でしたか?」

●王様
【セリフ】王様「ぐぐぐぐぅ、ヨアンじゃと? ちょっとまて、ヨアンはええと…」

●五つ子、次々とまくしたてるように(適当に)
【セリフ】五つ子「王様、三男は誰ですか?」
【セリフ】五つ子「王様、バーナードは何番目の兄弟でしょう?」
【セリフ】五つ子「王様、チャーリーはどれですか?」
【セリフ】五つ子「王様、誰と誰が一緒にお酒を飲んでいましたか?」
【セリフ】五つ子「王様、僕は誰ですか?」

●王様〈震えながら爆発して〉
【セリフ】王様「ぶはぁ〜! ええ〜い、お前たち余を馬鹿にしておるな! こうなったら五人まとめて牢屋にぶち込んでくれようか おい宰相!」

【語り】そのとき宰相はお城の掃除係に呼ばれました。どうやら大事な話があるようです。

●宰相
【セリフ】宰相「うむ何かな、ちょっと失礼」

●宰相を退場させる。

【語り】そして暫くすると宰相は戻ってきました。

●宰相を入場させる。そのまま王様のもとへいって内緒話

●宰相
【セリフ】宰相「王様王様、ごにょごにょごにょ…」

●王様〈びっくりして〉
【セリフ】王様「なんじゃと! おおそうか! なんということだ! とにかく、ごにょごにょごにょ…」

●王様、五つ子に向き直って
【セリフ】王様「おいお前たち、もう帰ってよいぞ。まあなんだ。そういうこともあるもんだ。解ったならさっさと帰るがよい! お前たちみたいな紛らわしい五つ子なんか余はもう見たくないぞい!」

【語り】そうして五つ子はあっさりと城から帰されてしまいました。

●背景の謁見の間を取り払う

【語り】帰りの道すがら、五つ子たちはお互いに話をしていました。

●五つ子、順番は適当に
【セリフ】五つ子「いやはやしかしどうして急に帰されたのだろうね?」
【セリフ】五つ子「さしずめ王様の大事な宝石が見つかったんだろうさ」
【セリフ】五つ子「あの王様のことだ。どこかに置き忘れでもしていたのさ」
【セリフ】五つ子「なるほどそうにちがいない」
【セリフ】五つ子「しかし、宿屋の女将が見たのは一体誰だったんだろうね?」

【語り】五つ子が歩いていると、向こうからスカーフ屋のニックさんが通りかかりました。

●スカーフ屋ニックを登場させる。〈ビッコをひいたようにぎこちなく〉
【セリフ】スカーフ屋ニック「これはこれは五つ子さんたち。今日はみなさんお揃いでちょうど良かった。頼まれていた新しいスカーフが出来上がったので届けようとしていたんですよ。」

●五つ子の一人を適当に
【セリフ】五つ子「これはどうもスカーフ屋のニックさん。新しいスカーフをありがとう。それにしても一体その足はどうしたんです?」

●スカーフ屋ニック
【セリフ】スカーフ屋ニック「ああこれかい。いやなに最近どうも風が強いでしょう。あれはいつかの晩のことだったね。急に風が吹き込んできて、君たちの新しいスカーフがあっという間に城の方に飛んでいってしまったのさ。探しにいったら城壁の上の方に引っかかっていてね。意を決してよじ登ってとってこれたはいいが、飛び降りるときに足をくじいてしまったのさ。全く曲芸師ムームーのようにはいかんもんだね。ハッハッハッ。」

【語り】こうして五つ子は新しいスカーフを身につけて、今日も城下町で暮らしています。
そうそう、あの宝石はやっぱり王様の枕の下に挟まっていたのを掃除係が見つけたようです。王様の大事な宝石は今日もピカピカに輝いています。

おしまい。