「貴方の肖像」

貴方のこと、
貴方のその断片をどんなふうに張り合わせて、
貴方を造り出しましょうか。

何もない暗闇のその真ん中に、肉片が一つ、
貴方、
貴方と呼ぼう。
貴方は震えている。どうやら怯えているらしい。
何に?
見られることに?他人の視線に晒されることに?
そうだ・・・、貴方は怯えつつ求めている。
視線を、
でなければ貴方は存在することができないから、
だから、
私が見ている。
それは同時に貴方に見つめ返されることだと知らずに・・・。

聞こえる。
貴方の新陳代謝の音に混じって、かすかに貴方の囁きが聞こえる。
貴方は自分でも気付かないうちに何事か囁いていたのだ。
貴方は何事か囁いている。
しかし貴方にもよく聞き取れない。
貴方は聞き耳を立てる。
貴方は知りたいという欲望の鼓膜を働かせ、少しづつ貴方には聞こえてくる。
貴方が何を囁いていたのか、聞こえる。
貴方は自分について囁いていたのだ。
貴方の体内の匂いのする息を吐き出しながら・・・。

触れる。
私が貴方に触れようとする。
貴方の皮膚と私の皮膚が接触する。
貴方は私に触れられ、同時に私に触れている。
私もまた、貴方に触れ、同時に貴方に触れられている。
だが、貴方も私も自分が触れているものに本当には触れてはいないのだ。
結局それはどこまでも自分の中のことでしかないのだ。
私たちの全身の皮膚の内側には弧絶がへばりついている。
私たちは自分という檻の中から抜け出ることができない。

その決定的な孤独の闇の中で・・・。

私は自分の手が暗闇の中に、貴方を彫刻していくのを感覚が自分に教えているのだと、
私は想像する。
出会うことへの渇望で、私の手が空間を区切っていき、
私は観念の肉に貴方の荷姿を浮かび上がらせる。
私の指は貴方の唇に触れ、貴方は微かに口を開く・・・。
「我は他者なり」